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種の保存

ミナミイワトビペンギンの人工繁殖

ミナミイワトビペンギンは、フォークランド諸島(マルビナス)などの南極周辺の島々に生息する、体長50㎝ほどの小型のペンギンです。

IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは「危急(VU)」に指定されている絶滅危惧種であり、また、国内飼育下においても個体数が減少しています。

こうした問題を解決するため、海遊館は2011年、神戸大学大学院農学研究科とともに人工繁殖研究の取り組みをスタートしました。

ミナミイワトビペンギンってどんな生きもの?

目の上にある黄色い飾り羽(冠羽)が特徴で、岩場を飛び跳ねながら移動することが名前の由来です。
沿岸の岩場の小石や雑草で営巣し、年に1度の繁殖期に通常2個の卵を産みます。雛が誕生すると、ペアで子育てします。

英名:Southern rockhopper penguin
学名:Eudyptes chrysocome

人工繁殖のメリット

飼育下のミナミイワトビペンギンが減少している主な理由は3つです。

  • 雌雄比の偏り(オスが多い)
  • 繁殖が難しい(受精率が低い)
  • 血統の偏り(血縁関係が近い個体同士は繁殖ペアを組むことができない)

海遊館は[1.オスが多い]という点に着目しました。メスとペアを組んでいない単独のオスから採精し、それをメスに注入する「人工授精」を行うことで、[2.受精率の低さ][3.血統の偏り]両方の解決につながります。

世界初成功までの道のり

まずは「どのように繁殖が行われるのか」を調べるところから始めました。

  • ビデオ観察 = 交尾の時期
  • 血液検査 = メスの繁殖シーズン中の血液成分の変化
  • 超音波 (エコー)検査 = メスの体内で卵がつくられる時期

それぞれを調べ、照らし合わせることで、最適な人工授精のタイミングを予測することができます。 また、人工授精に用いる精液を持つオスも重要です。年齢やペア個体の有無、営巣の有無などで精液内の精子の数や活性が異なるので、採取に適した個体の条件を調べました。
次の課題はオスから精液を採取する「採精」、メスに精液を投与する「人工授精」の方法です。
他の鳥類で確立されている方法を参考に、ミナミイワトビペンギンに最適な採精、受精方法を模索しました。
こうしたデータの蓄積と、2016年から葛西臨海水族園と連携を始めたことで、同年にミナミイワトビペンギンでは世界で初となる液状保存精液を用いた人工授精に成功しました。

さらなる発展を目指して

世界初成功を達成した翌年の2017年には葛西臨海水族園と共同研究契約を締結し、精液の「冷凍保存」に着手しました。 液状保存精液は精子の劣化を最小限に抑えられる一方、保存期間が短いことや、人工授精と採精のタイミングが合わないと使用できないという欠点もあります。 そこで、半永久的に保存可能で、人工授精に最適なタイミングで使用できる冷凍保存精液に発展の可能性を見出しました。

精液の冷凍保存にもたくさんの壁があります。希釈液や耐凍剤の濃度、冷凍温度、冷凍速度などが精子の生存率に影響するため、様々なケースで検証しながら冷凍条件を確立させていきました。 そして2022年、葛西臨海水族園で誕生(孵化)したヒナが世界初となる冷凍保存精液を用いた人工授精に成功、さらに翌々年の2024年には海遊館でも世界2例目となる成功を収めることができました。

こうした研究の実績が認められ、2025年5月22日に開催された日本動物園水族館協会(JAZA)の総会で、海遊館では初となる「古賀賞」を受賞しました。



  • 古賀賞…繁殖が難しく、世界的にも重要な希少生物の繁殖に功績を残した動物園や水族館に対して贈られる、日本動物園水族館協会の最高の賞


海遊館は、本研究で培った技術を用いて、館内繁殖による国内のミナミイワトビペンギンの継続飼育や、将来的には野生下のペンギン類の保全に貢献できればと考えています。 国内の本種の健全な個体群の形成や繁殖技術の発展のため、これからも取り組みを続けていきます。

【過去の人工繁殖についてのブログ】

備考

海遊館と神戸大学大学院農学研究科の楠 比呂志氏(准教授)は、ミナミイワトビペンギンの繁殖生理を解明し、人工繁殖の技術を確立することを目的として共同研究を行いました。研究テーマは「行動観察による交尾時期の特定」、「メスの血液性状からみた受精および産卵日の特定」、「エコー検査による排卵日の特定」「精液採取法の開発」と「精液の保存法の確立」など。

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