出勤と帰宅を思わせるキクノハナガイ

キクノハナガイは、笠型の殻を持つ巻貝の仲間です(写真1)。
この貝に興味を持ったのは、8月中旬にでかけた大阪湾南部の海岸で写真2の光景を見たからです。写真の水際に黒っぽいものが多数集まっていますが、ほぼすべてキクノハナガイです。
また、その上方に白く丸い模様が岩の上部まで見えますが、これがキクノハナガイの家(家痕【かこん】)です。文献を調べると、このシーンには人間の出勤と帰宅を思わせる面白い意味があることがわかりましたのでご紹介します。

キクノハナガイは、休息場所として自分の決まった家を持ちます。水中に没している時は家でじっと動かない事が多く、潮が引き、干上がる直前になると急に動き出して下方へと移動を始めます。徐々に下がる波打ちぎわを追いかけるような行動です。この行動が開始された時の様子が写真3です。キクノハナガイの出勤タイムです。その後、潮がかなり引いた時の様子が写真2です。この行動は、乾燥を避けるためと岩についた細かな藻類を食べるためだと考えられます。天敵の多い水中ではむやみに動かず、陸でも水中でもない波打ちぎわにいることで天敵からのがれ、安心して餌を食べ乾燥も防ぐというわけです。

やがて上げ潮になってくると帰宅タイムとなり、今度は上方の家へと戻ります。興味深いのは、自分の家へと帰ることです!どうして間違わず自宅へとたどり着けるのか?まだよくわかっていません。キクノハナガイは、体から石灰分を溶かす成分を分泌し、柔らかくなった岩の表面を歯で削ることで家を作るそうです。削られた部分にはコケが生えにくく、写真2のように家痕として見えるわけです。

【写真1】キクノハナガイ
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【写真2】水際に集まるキクノハナガイと岩に残る家痕。 最干潮に近い時間帯に撮影。キクノハナガイが家から移動した様子がわかる。

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【写真3】移動を始めたキクノハナガイ 写真2と同じ岩の上部。満潮時に水中にあった岩が下げ潮に伴い徐々に露出してきている。キクノハナガイもそれに伴い家から移動を始めている。

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