スミツキイシガキフグ(ポーキュパインフィッシュ)が生まれました!

ニュージーランドの海中環境を紹介している「クック海峡」水槽で、世界で2例目(※海遊館調べ)となるスミツキイシガキフグが産卵しました!

長年、飼育を続けてきた海遊館でも数少ないことです。
自然環境を再現した水槽で魚たちが産卵してくれるのは、本来の生息環境と同じだよ!と認めてくれているような気がして、とてもうれしいです。

この機会に、スミツキイシガキフグのことや繁殖について、詳しく紹介したいと思います!

1.スミツキイシガキフグってどんな魚?

英名:Porcupine fish(ニュージーランドの呼び方) 学名:Allomycterus pilatus 0422picture_01.jpg
和名(日本語の名前)は、スミツキイシガキフグ 。※フグ目ハリセンボン科の魚です。
すごく簡単にまとめると・・・
①口が小さく、おちょぼ口で
②鰓孔が小さく、胸鰭の付け根にあり
③腹鰭はありません(←フグ目の特徴です。)
④くりくりした大きな瞳、まん丸なボディ
⑤体はたくさんの顕著なトゲでおおわれる(←ハリセンボン科の特徴です 。)
⑥外見でオスとメスの区別ができない
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ニュージーランドから南オーストラリアに生息しています。この海域は、南極からの冷たい海流が流れ込み、年間を通して水温は14℃~23℃くらいです。
また、国内の水族館でも、展示しているところが少ないため、あまり見られない種類です。

2.ハリセンボンとどこがちがう?

こちらは、ハリセンボンです。
英名: Longspined porcupinefish 学名: Diodon holocanthus
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・世界中の熱帯域~温帯域に生息。
・主に貝類や甲殻類を捕食する。
・海遊館では「パナマ湾」水槽で飼育展示しています。
ご存知の通り、体を膨らませることができます。
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そして、こちらがスミツキイシガキフグです。
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写真を見比べて、ハリセンボンとスミツキイシガキフグの違いはどこでしょう?
観察ポイントは、体にあるトゲの様子です。
ハリセンボンのトゲは、普段、体に沿って倒れていて、体を膨らませることによって起き上がります(可動性)。一方、スミツキイシガキフグのトゲは常に立っています(不動性)。

そして、ハリセンボンと同じく、体を大きく膨らませることもできるのです。
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3.産卵を確認、しかし...

スミツキイシガキフグの繁殖について、わかっていることが極めて少なく、海遊館は過去に産卵は確認されましたが、うまく育ちませんでした。国内の水族館では、わずか1例のみ繁殖に成功した例(Doi et al.,2015)がありますが、生息域のニュージーランドやオーストラリアを含めて、成功例は報告されていません。

産卵したらすごく貴重だなーと思いながら、毎日様子を観察していたところ、2020年10月頃にお腹が大きくなりはじめた個体が現れ、11月にはパンパンに大きくなっていました。最初は太りすぎかな?と思っていましたが、お腹の張り具合が肥満とは違うような...。
0422picture_07.jpg お腹が大きくなった個体

そして12月。いつもは水槽の角に集まっているスミツキイシガキフグのうち、1個体だけ洞窟の底でじっとしているのを発見。詳しく観察するためウエットスーツに着替え、潜水して近づいてみると、その個体の近くに、たくさんの卵(1粒約2㎜)を発見しました!
いつもスミツキイシガキフグたちが集まっている様子はコチラ→『どんなことをみんなで話している?』


0422picture_08.jpg 顕微鏡で見た卵の写真

発見した卵は、水槽内で孵化し、そのまま順調に育てば良いのですが、孵化直後の仔魚はとても小さく、水槽の海水はろ過循環しているため、ろ過装置に流されてしまいます。

そこで、卵を回収してバックヤードでの孵化を試みましたが、未受精卵だったためか、残念ながら1尾も孵化せず...。さらに、その後、卵の近くにいた個体も洞窟から姿を消してしまったのです。

4.2回目の産卵!そして...無事に~

その翌月の2021年1月12日、「クック海峡」水槽の底砂をきれいに掃除する"バキューム清掃"の時に、担当していた飼育員(ダイバー)から「卵を見つけたから回収した。」との連絡がありました。
確認するとスミツキイシガキフグの卵でした。すぐさまバックヤードへ収容し再び卵を見守ることに。

待つこと3日間。念願の孵化がはじまり、5日後にはすべての卵が孵化に至りました。孵化直後の仔魚は、全長 約3㎜。その後、約30尾が順調に成長し、孵化後約3ヶ月で、全長は約25㎜まで大きくなりました!よかったです!とてもうれしいです。

実は、本種の繁殖に世界で初めて 成功した方は、現在、ニフレルで勤務しています 。仔魚の育成についてアドバイスを受けながら、餌の種類や飼育設備を考えました。
仔魚は餌を食べないとすぐに弱ってしまうので、水槽内には常に餌がある状態を保たなければいけません。そのため1日に何回も給餌する必要があります。その分水も汚れるので、こまめな掃除も欠かせません。なので、複数の飼育係員が携わり、1日も欠かさずお世話を続けてきました!

5.成長の様子をダイジェストで紹介!

さて、ここからは成長の過程をダイジェストでお見せします!
孵化時の体はほぼ透明ですが、体型はオヤビッチャ(スズメダイ科)と比べると、少しずんぐりしており、眼はまだ黒く なく、 体のつくりも脆弱です。
0422picture_09.jpg スミツキイシガキフグ(孵化時)
0422picture_10.jpg オヤビッチャ(孵化時)

孵化から3日後には、まん丸なフグっぽい体型になりました。
体色は茶褐色でまだ特徴的なトゲはありません。
0422picture_11.jpg 孵化後、3日目

孵化後、約1ヶ月になると、これからトゲになるんだろうな~と思わせる部分ができてきます 。
0422picture_12.jpg 孵化後、約1ヶ月

孵化後3ヶ月の現在は、特徴的なトゲが見られ、体の丸みが徐々に細長くなってきました。体色は成魚に比べると黒っぽいです。
0422picture_13.jpg 孵化後、3ヶ月

本種は繁殖事例が極めて少ないので、将来、今回の事例が現地での保全活動などに活かされるようできる限り詳細なデータを収集しています。

6.現地の漁師さんも"So cool!"

この出来事は、3年前にニュージーランドでスミツキイシガキフグを採集し、海遊館に送ってくれた漁師さんにも報告しました。すると、"So cool, well done mate. Legend!"との返事があり、とても興奮してしまいました。現地の方々との繋がりもさらに強くなったと感じています。

今回は、硬骨魚類の繁殖例として貴重な経験であるとともに、よい記録を得ることができました。今後も、生きものたちにとって暮らしやすい環境を整えて、繁殖行動につながるよう努力していきたいと思います。そして、貴重な野生生物の生態解明やサステイナブルな飼育展示を目指したいと考えています

孵化した稚魚の一部は、海遊館内の企画展「ぎゅぎゅっとキュート」にて、4月29日から期間限定で展示します。今しか見られないキュートな姿をぜひ見に来てください!

7.英文(要約)

The Second Case in the World! A Successful Breeding of Porcupine Fish (Allomycterus pilatus)!

Our Porcupine fish (Sientific name: Allomycterus pilatus), one of New Zealand's species, exhibited in the "Cook Strait" tank has spawned.
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On 12 January 2021, all eggs were collected and taken care at the backyard. They started to hatch on 15 January and all eggs hatched on 18 January.

At the time of the hatching, their total lengths were 3mm and they grew to 25mm about 3 months after the hatching. About 30 of them are alive. This is the world's second case of successful breeding and will be the valuable record.

0422picture_08.jpg A egg of Porcupine fish 
Egg size : 2㎜

0422picture_09.jpg The next day of the hatching
total length:3㎜

0422picture_11.jpg Three days after hatching 
total length:3.6㎜

0422picture_12.jpg One month after hatching
total length:8㎜

0422picture_13.jpg Three months after hatching
total length:25㎜

We have only limited information on the breeding of this species and will collect detailed data as possible as we can to help the conservation activity in the field.
We will also try to create a suitable living environment for animals, which can lead to another breeding success in the future.


尼岡邦夫 [ほか] 編集
ニュージーランド海域の水族 : 深海丸により採集された魚類・頭足類・甲殻類
海洋水産資源開発センター 1990年 410pp.

中坊徹次[ほか]編集
日本産魚類検索:全種の同定 第三版Ⅱ
東海大学出版会 2013年 2428pp.

Hiroyuki Doi, Takayuki Sonoyama, Yuko Yamanouchi, Kenta Tamai, Harumi Sakai, Toshiaki Ishibashi
Adhesive demersal eggs spawned by two southern Australian porcupine puffers
水産増殖 2015 年 63 巻 3 号 p. 357-359

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