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オスのようでメスだった!?とあるトラフザメが見せた超不思議な生態

2025年07月27日

ジンベエザメが悠々と泳ぐ「太平洋」水槽、底に目をやってみるとじっとしていることの多い斑点模様の大きなトラフザメ。そんなトラフザメの不思議な生態の論文がこの度、国際学術誌に掲載されました。

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トラフザメはインド洋から太平洋にかけて広く生息する底生のサメで、幼魚のころはシマシマ模様から英語では "zebra shark(シマウマ(模様の)サメ)" なんて呼ばれることもあります。ちなみに和名の "トラフザメ" は "トラ斑(ふ)のサメ" が由来といわれており、成長に合わせて由来の生きものが変わるのも面白い特徴の一つです。

トラフザメを含むサメ・エイの仲間は通常、おなか側のヒレ(腹ビレ)にある "クラスパー" の有無で簡単にオスメスが見分けられます。クラスパーはオスの特徴で、交尾の時に活躍する器官なのです。

2507_torafu_02.jpg腹側から見たイズヒメエイのオスとメスの写真(左側がオス、右側がメス)

おもしろいことに、時々、クラスパーを持っているのに卵を産む個体『雌雄同体=オスとメスの特徴を併せ持つ』が見られることがあります。更に、メスであっても、オスが居ない状態で卵を産んで殖える "単為生殖" を行う種類がいるなど、サメ・エイの性別や繁殖にはたくさんの不思議があります(しかも原因はまだハッキリとしていない...)。今回はこんな雌雄同体と単為生殖にまつわる調査をニフレルと海遊館の飼育員が筆頭となり、他機関と共同で研究し、論文を執筆しました。
過去にニフレルで飼育していたトラフザメ、よく見てみると腹ビレの付け根にとても小さなクラスパーを発見しました。つまりオスですね。

2507_torafu_03.jpg今回のトラフザメで確認されたクラスパー

不思議だったのは、体は大人のサイズだったのに、クラスパーの大きさが未熟ということでした。稀にこんなオスもいるものなんだな。と思っていました。しかし1個体だけで順調に数年間飼育を継続していると、なんと卵を産んだのです!

2507_torafu_04.jpgトラフザメの卵

まさかのメス?でもクラスパーあるし・・・珍しい個体だな。と思いました。トラフザメでは、これまでにも単為生殖の報告が知られており、もしかしたら発生するのかも...という一縷の望みを持って卵を収集・保持していました。すると数ヵ月後に8個の卵の卵黄に胚(赤ちゃん)が見えたのです。そしてさらに数ヵ月後に1個の卵から稚魚が孵化したのです!(残念ながら稚魚は死亡...)

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その後、産卵した親個体は海遊館に移動してしばらく飼育していたのですが、残念ながら死亡してしまいました。そこで、これまでに起きた色んな謎を明らかにするべく、親個体の解剖・観察と稚魚との遺伝子の比較(親子鑑定)を行ったところ、このトラフザメが"不完全ながら雌雄同体の特徴を持ったうえに、"単為生殖" したことが明らかとなりました。当事者の我々も、混乱してしまいそうな事例でした。

前述したように、世界中のいくつかの水族館でトラフザメが単為生殖を行うことはこれまでにも報告されてきましたが、"雌雄同体の特徴を持つ個体が単為生殖を行う" という事例はこれまでサメ・エイでも報告が無く、今回の事例が初めての報告となりました。これらの出来事をまとめた論文は下記URLから要約のみ無料で閲覧可能となっております。ご興味がある方は是非ご覧いただければと思います。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jfb.70122

サメやエイ、軟骨魚と呼ばれるグループは "原始的" と言われることもありますが、実はその生態にはわかっていないことも多くあります。今回の論文がそんなサメ・エイの生態の謎解きの一助となってくれたらいいなぁ...なんて著者は思っています。

"単為生殖" のような現象は、同一個体を長期的に観察することができる水族館からの報告が多く、実は水族館は重要な研究フィールドとなります。こんな水族館という特殊なフィールドを活かしながら、これからもサメ・エイを始め、色々な生きものの不思議について発信していきたいと思います。

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