非常に珍しいイトマキエイの姿をご覧いただけます!

itomakiei1.jpg

海遊館では、平成27年11月12日(木)にイトマキエイ2尾(オス、メス各1尾、体の幅約1.5m)を「太平洋」水槽に搬入しました。本種の飼育事例は少なく、現在、イトマキエイの生態を観察できるのは世界中の水族館でも海遊館のみです。
現在、大きなヒレをはばたかせて泳ぐ姿や頭ビレと呼ばれる特徴的な部位を使って餌を食べる様子などをご覧頂けます。


イトマキエイは外洋で生活しているため、いつ、どこで見られるかわかっておらず、その生きた姿を観察する機会は多くありません。日本沿岸では稀に定置網に迷入し、標本の研究はありますが、水族館での飼育例はほとんどありません。この理由には、遊泳力の強いイトマキエイは輸送が難しく、飼育に大型水槽が必要であることが挙げられます。


海遊館では、高知県土佐清水市に「大阪海遊館 海洋生物 研究所 以布利(いぶり)センター」(以下、「以布利センター」)を設置し、地元の漁業関係者の協力を得て、大型海洋生物の飼育下研究を行っています。イトマキエイも対象種で、特に今回は健康管理のためのトレーニングを行い、船の甲板に直径8mの大型水槽を設置して、イトマキエイが自由に泳げる状態で高知県から大阪までの長距離輸送を行いました。


今後も海遊館では、知られざる海の生き物の生態を調べることで種の保護や環境保全に貢献し、同時にこれらを一般公開することにより多くのお客様に美しく多様性に満ちた海の生き物に関心を持っていただき、海遊館ならではの役割を果たしてまいります。


【イトマキエイについて】
和名:イトマキエイ 英名:Spinetail mobula  学名:Mobula japanica

itomakiei2.jpg

トビエイ科。南日本から東シナ海、南シナ海、ハワイにかけて分布する大型のエイの仲間で、頭部の両端にある"糸巻きのような"頭ビレが特徴です。外洋で生活し、翼のような大きなヒレをはばたかせて泳ぎ、成長すると体の幅が3mにもなります。一般に知られるマンタ(オニイトマキエイやナンヨウマンタ)と姿が似ていますが、口の位置と幅の違いから見分けられます。イトマキエイの口は腹側に位置し、マンタの口は幅広く頭部の前にあります。マンタは、国内でも沖縄県などに有名な観察ポイントがありますが、イトマキエイを確実に見られる海域は今のところ知られておらず、詳しい生態は解っていません。

【イトマキエイの飼育下研究のポイント】
現在、イトマキエイの長期飼育に成功し、生態解明のためのデータ収集を行っている水族館は海遊館のみとなりますが、今回の成果に至ったポイントは次のとおりです。

1.イトマキエイは定置網への迷入が稀で、飼育の機会が少ない。
→地元の漁業関係者と協力体制を構築し、定置網に近い場所に以布利センターを設置しています。

2.イトマキエイは遊泳性が強いため、飼育に大型水槽を必要とする。
→以布利センターは大型水槽(水量1,600tと3,300t)を備えています。

3.イトマキエイは遊泳性が強いため、輸送が難しい。
→輸送船に大型水槽(直径8m、八角型)を設置し、イトマキエイが自由に泳げるよう工夫しました。
→イトマキエイに誘導トレーニングを施した結果、安全にストレスなく輸送水槽に移動できました。

itomakiei3.jpg
【イトマキエイの飼育下研究について】
海遊館では、開館前の準備期から、黒潮海流が接岸する高知県土佐清水市にてジンベエザメなど海洋生物の調査を行ってきました。この調査活動を発展させるべく、平成9年に本格的な研究施設として以布利センターを設置し、地元定置網漁業の関係者の協力を得て対象生物を収集し、定置網に迷入したジンベエザメなど大型海洋生物の飼育下研究を行っています。
イトマキエイについては、平成20年から飼育下研究の対象種として本格的な取り組みをはじめました。定置網への迷入が稀で、その時期や季節性も認められていないため、未だにいつどのような条件下で迷入するのか予測ができません。よって、地元漁業関係者と密な協力関係がなければ、突発的に迷入する イトマキエイの収集には至らず、加えて定置網漁から近い場所に大型水槽を備えた以布利センターを設置していることが成果に結びつきました。

現在、海遊館で飼育中のイトマキエイは、平成27年7月に定置網(以布利共同大敷組合が運営)に入網しました。以布利港内の生簀(7m×7m×深さ5m)に搬入後、イサザアミやオキアミを与えて餌付けに成功し、同年8月17日に以布利センターの水槽に移しました。

ここで、イトマキエイに対しては初めてとなる健康管理のためのトレーニングを開始し、手元から直接餌を与えることでビタミン類などの投薬ができるようになり、安全にストレスなく誘導できるようになったことから、血液性状などの基礎的なデータの収集も開始しました。この誘導トレーニングはイトマキエイを驚かせずに小型水槽に収容できるため、大阪への輸送の際にも非常に役立ちました。

また、平成20年にはじめて海遊館での展示に成功した際の飼育数は1尾でしたが、今回は2尾(オス、メス各1尾)であるため、成長に伴う行動変化やオスとメスによる繁殖行動の観察にも期待しています。これらのデータの収集により、イトマキエイの種の保存(域外保全)や回遊生態の解明、また生息環境の保全に役立てたいと考えています。

【イトマキエイの長距離輸送について】
itomakiei4.jpg

以布利センターでは、平成20年から本格的にイトマキエイの飼育下研究に取り組んでいますが、高知県から大阪までの長距離輸送には課題が残っていました。過去2回のうち1回は、輸送中にイトマキエイが死亡してしまいました。外洋域で生活し遊泳力の高い(常に泳ぎ回る)イトマキエイを輸送するには、二通りの考え方があります。

ひとつは、大型の輸送用水槽を用いてイトマキエイを自由に泳がせながら輸送する方法。もうひとつは、逆に体と同じくらいの小さな水槽に入れ、泳ぎを制限することで壁面への衝突を防ぎ、興奮状態を抑えようとする考え方です。参考までに、大きな体で常に泳ぎ回るジンベエザメの輸送には、後者の方法を採用してよい成果を得ています。大型水槽を用いる前者の場合、船に水槽を積載する海上輸送しかなく、高知県から大阪まで20時間以上もの長い時間を要するとともに、悪天候の影響や季節によって気温や水温の維持が困難になります。

今回の輸送では、過去に行った陸上輸送に課題が残っていること、また、2尾のイトマキエイを輸送することから大型水槽を用いた海上輸送を選択しました。輸送当日は海況が悪化したため、予定していた太平洋の航路がとれず、瀬戸内海経由の航路となったため、輸送時間が当初計画の22時間を大幅に超え、約34時間の長距離かつ長時間輸送となりましたが、健康な状態で「太平洋」水槽に搬入することができました。


【大阪海遊館 海洋生物研究所 以布利センターについて】
itomakiei5.jpg

平成9年9月24日、高知県土佐清水市以布利に開設。大型の円形水槽(直径約20m、水深約5m、容量約1,600t)と研究管理棟を設置。海遊館で展示する生物の収集、生態研究ならびに足摺岬周辺海域における海洋生物の基礎的研究を始めました。ジンベエザメなどの大型魚類の飼育を行い、健康管理のためのトレーニングや回遊経路調査などに取り組み、謎の多い海洋生物の生態調査や 繁殖研究を行っています。

最新のニュース

アーカイブ